研究概要

 私たちは,脳がどのように作られるか,研究しています.

 

 脳形成の原理の探求は,医学的な貢献を念頭に,世界規模で推進されています.それには,

(1)脳の構築原理の熟知にもとづいて高次脳機能の理解を深める,

(2)先天性疾患や脳腫瘍などの病因・病態を明らかにする,

(3)再生医療的取り組みの基盤的知見を提供する,

などの長期的な目的があります.

 

 具体的には,基礎研究の積み重ねによって,過去に原因不明であった疾患の病因が明らかにされるなどの成果が重ねられつつあります.また,幹細胞を利用しての再生医療には「脳の組み立てを真似て損傷部位を治したい」という願いがあります.こうした願いのためには,まず「脳の作られ方」をよく知る必要があるという訳です.

 

 一方,脳形成に挑む研究は,生物学的な知を求める取り組みとしても重要な意味を持ちます.宮田は,細胞の集団によって組織という秩序構造が生成される原理を,分子から個体までの多階層をつなぐ学際的なアプローチによって読み解く,という広い学術的取り組みの推進にかかわっています(新学術領域「動く細胞と秩序」における取り組みをご参照ください)が,脳の原基は,「動く細胞」に富み,また最終産物の「秩序」の見事さからも,こうした学際的取り組みのよいモデルとして意識できます.


 このような学術的および社会的な意義を念頭に,当分野は,中枢神経系の発生のメカニズムに関する基礎的な研究を行なっています.

 

 「脳づくり」には,大きく分けて2つの重大事があります.

    それは「細胞づくり」と「組み立て」です.

 

 「細胞づくり」は,神経前駆細胞による分裂,細胞間相互作用を介する娘細胞による多様な運命の選択などから成り立っており,巧妙な細胞内および細胞外の分子メカニズムによって制御されていると考えられていますが,まだまだ,分からない事だらけです.

 

 「組み立て」は,ニューロンの移動,層形成や回路形成からなる,複雑かつ見事な「組織づくり」の過程です.ここにも細胞内外のさまざまな分子機構が関与しています.

 

 私たちは,これら2つのことがら・局面に対しての理解を深めるために,大脳,小脳,網膜などを対象とし,組織本来の構造をできるだけ保存したままで行なう細胞イメージング,単一細胞PCRにもとづく遺伝子発現プロファイリング,子宮内電気穿孔法やウイルスベクターなどによるインビボ急性遺伝子操作実験などを駆使して,細胞たちのふるまいとその原理を明らかにしていこうと努力しています.


(2012年4月5日)   →「クエスチョン」

 

 

「細胞づくり」の担い手である神経前駆細胞が「脳づくり(組み立て)」のためにも重要な役割を果たしていることを明らかにしました

 

「クエスチョン」のページに神経前駆細胞の核移動すなわちinterkinetic nuclear migration (INM)」の様子を例示しています.これまで,その「存在」はよく知られていましたが,「意義」については分かっていませんでした(それをなくしてしまうとどうなってしまうのかという実験が行なわれたことがありませんでした).また,細胞ごとの核移動の原理については知見が増えつつあるものの,集団としてどういうように近隣関係にある細胞の核の動きの調整が果たされているのか不明でした.さらに,神経前駆細胞の長く伸びた形態が核移動に役立っているのかについても明らかではありませんでした.こうした疑問に対して,さまざまな実験を通じて挑み,新しい理解を得ることができました(Okamoto et al., Nat. Neurosci. 2013年9月22日online).プレスリリース中日新聞で紹介マイナビニュースで紹介.「ライフサイエンス 新着論文レビュー」で紹介.

 

 

 

 

< ご参照ください >

 

「研究技術・リソース」のページに,最近の研究成果を踏まえた新しい姿勢・意欲を示し,それに関わる技術・方法を記載しています(2014年 6月).

どういうことを大切と考え,何を知りたいから,かくかくしかじかというテクニックを磨き,新たに得ようとしているか....というような説明です.関心をお持ちの学生さん,お気軽にお問い合わせ下さい.見学も歓迎します.