2015.6.23 京都大学医学部で講義「群集生態学的に脳形成過程の細胞挙動を問う」
2014年8月29日 首都大学東京にて「脳づくりを下支えする神経前駆細胞の集団的核移動」
発生中の脳原基の中にいる神経前駆細胞は,どんな器官・組織の分裂細胞にも共通する「2つの娘細胞をつくる」という基本業務に加えて,独特の三次元的環境・制約のもと,(a)上皮としてふるまう(ジャンクションを築いて脳室と対峙する),(b) apicobasal軸に沿って(脳原基壁を貫いて)細長く伸びる,(c)細長いからだの中で細胞周期進行に応じた両方向性の核移動(interkinetic nuclear migration = INM)を行なう,など多才な能力を,同時進行的に,発揮しています.近年,INMの細胞内機構が研究され,微小管依存的およびアクトミオシン依存的なしくみが理解されるようになりましたが,(1) INMが脳形成に対してどんな意義をもつか,(2)神経前駆細胞が「個々によるINM」をどう集団として効率的に「束ねて」いるのか,については,研究が手薄でした.私の研究室では,全細胞に対する(核および輪郭の)イメージングと平均二乗変位(mean-squared displacement)法による定量的解析,前駆細胞から「細長い伸び」を奪う実験(TAG-1という細胞表面分子のノックダウン),力学的解析,シミュレーションなどを総合的に組み合わせ,集団的INMのありようを「生態学」的あるいは「渋滞学」的に研究しています.脳原基がめざす「細胞産生の規模(リターン)と核・細胞体の混雑(リスク)」を折り合わすために効率的(経済的)物流が重要な役目を果たしているように思います.セミナーでは,こうした内容をご紹介するとともに,最近見つけたマウス大脳原基とフェレット大脳原基のINMの違いもお示ししたいと思います.